- こころ
- I
こころ【こゝろ】小説。 夏目漱石作。 1914年(大正3)「朝日新聞」連載。 エゴイズムに悩みつつ, 明治の精神に殉じて自殺する「先生」の心を通して生の孤独感を描く。IIこころ【心】❶人間の体の中にあって, 広く精神活動をつかさどるもとになると考えられるもの。(1)人間の精神活動を知・情・意に分けた時, 知を除いた情・意をつかさどる能力。 喜怒哀楽・快不快・美醜・善悪などを判断し, その人の人格を決定すると考えられるもの。
「~の広い人」「~の支えとなる人」「豊かな~」「~なき木石」
(2)気持ち。 また, その状態。 感情。「重い~」「~が通じる」
(3)思慮分別。 判断力。「~ある人」
(4)相手を思いやる気持ち。 また, 誠意。「母の~のこもった弁当」「規則一点張りで~が感じられない」
(5)本当の気持ち。 表面には出さない思い。 本心。「~からありがたいと思った」「笑っていても~では泣いていた」
(6)芸術的な興趣を解する感性。「絵~」
(7)人に背こうとする気持ち。 二心。「人言(ヒトゴト)を繁みこちたみ逢はざりき~あるごとな思ひ我が背子/万葉 538」
❷物事の奥底にある事柄。(1)深く考え, 味わって初めて分かる, 物の本質。 神髄。「茶の~」
(2)事の事情。 内情。 わけ。「目見合はせ, 笑ひなどして~知らぬ人に心得ず思はする事/徒然 78」
(3)言葉・歌・文などの意味・内容。「文字二つ落ちてあやふし, ことの~たがひてもあるかなと見えしは/紫式部日記」
(4)事柄の訳・根拠などの説明。 また謎(ナゾ)で, 答えの説明。「九月の草花とかけて, 隣の踊りととく, ~は, 菊(聞く)ばかりだ」
❸(1)心臓。 胸。「別れし来れば肝向かふ~を痛み/万葉 135」
(2)(「池の心」の形で)中心。 底。「池の~広くしなして/源氏(桐壺)」
(3)書名(別項参照)。~合わざれば肝胆(カンタン)も楚越(ソエツ)の如(ゴト)し〔荘子(徳充府)〕最も近い間柄の人でも, 気が合わないと疎遠な他人と同じである。~入(イ)・る心が引きつけられる。 夢中になる。「そのうつくしみに~・り給ひて/源氏(末摘花)」
~内(ウチ)にあれば色(イロ)外(ソト)にあらわる⇒ 思い内にあれば色外にあらわる(「思い」の句項目)~後(オク)・る(1)心の働きが劣る。「うちをば思ひよらぬぞ~・れたりける/堤中納言(逢坂)」
(2)気後れする。「あやしう, ~・れても進み出でつる涙かな/源氏(梅枝)」
~重・し思慮深い。 慎重だ。「世の中に~・くづしやかに思はれ給ひつる人の/宇津保(国譲中)」
~及・ぶ(1)想像がつく。「これこそ翁らが~・ばざるにや/大鏡(道長)」
(2)気が付く。 気持ちが行き届く。「心の及ばむに従ひては, 何事も後見きこえむ/源氏(澪標)」
~が痛・むすまないという気持ちで苦しくなる。~が動・く(1)そうしたいという気が起こる。(2)気持ちが平静でなくなる。~が通(カヨ)・う互いの気持ちが通じ合う。 心が通じる。~が騒・ぐ心配や不吉な予感などのため, 心が落ち着かない。~が弾(ハズ)・む楽しい期待で気持ちがうきうきする。~が晴・れる心配事や疑念が解決して, こだわっていた気持ちが消える。~が乱・れるあれこれ思いわずらい, 平静でなくなる。~利(キ)・く気がきく。 才覚がある。~ここに有(ア)らず〔大学〕他の事に心を奪われていて, 眼前のことに心を集中できない。 心ここにあらざれば視(ミ)れども見えず。「~という有り様でそわそわしている」
~知・る(1)事情・訳などを知っている。「~・らぬ人々は, …ととがめあへり/源氏(末摘花)」
(2)情趣を解する。「~・らむ人に, などこそ聞え侍りしか/源氏(紅梅)」
~好・く風流を好む心がある。「すぐれて~・き給へる人にて, つねは吉野山をこひ/平家 1」
~付(ツ)・く※一※〔「付く」は四段〕(1)そういう心になる。「かの大臣のかたざまは思ひのく~・きなむ/寝覚 3」
(2)物心がつく。 分別がつく。「彼の者~・きて, 父は何処にやらんと尋ね候ふべきなれば/義経記 5」
※二※〔「付く」は下二段〕(1)好意を寄せる。 関心を持つ。「まま母の御あたりをば~・けてゆかしく思ひて/源氏(若菜下)」
(2)気付かせる。 注意させる。「若き人に見習はせて~・けんためなり/徒然 184」
~解(ト)・く警戒心が薄れる。 うち解ける。「人離れたる所に~・けて寝ぬるものか/源氏(夕顔)」
~に浮か・ぶ考えつく。 思い浮かぶ。~に懸(カ)か・る気がかりに思う。 気にかかる。~に懸(カ)・ける心にとめる。 気にかける。 心配する。~に適(カナ)・う望んでいたことにうまく当てはまる。~に刻・む深く心にとどめる。~に染(ソ)まぬ自分の気持ちに合わない。~に染(ソ)・む気に入る。 意にかなう。「~・まぬ妻定め, 左右なう引くべき様はなし/浄瑠璃・国性爺合戦」
~に付(ツ)・く※一※〔「付く」は四段〕気にいる。「~・かば, 速やかに取れ/今昔25」
※二※〔「付く」は下二段〕関心を持つ。 心にかける。「おもしろき家造り好むが, この宮の木立を~・けて/源氏(蓬生)」
~に留(ト)・めるいつも意識し, 忘れないでおく。 心にかける。~に残・る感動がのちのちまで続く。「~・る名画」
~に任(マカ)・せる(1)自分の思うままにする。(2)思い通りになる。「~・せぬ恋の道」
~にもな・い本気でそう思っている訳ではない。 自分の本心とは違う。「~・いお世辞をいう」
~の欲する所に従えども矩(ノリ)を踰(コ)えず〔論語(為政)〕自分の思うがままに行なっても, 正道から外れない。 孔子七〇歳の心境を述べたもの。→ 従心~広く体(タイ)胖(ユタカ)なり〔大学〕心にやましいことがなければそれが形にも表れて, 心身ともにのびやかである。~を合わ・せる(1)同じ目的に向かって心を一つにする。(2)示し合わせる。 共謀する。「こなたかなた~・せてはしたなめ煩はせ給ふ時も多かり/源氏(桐壺)」
~を致(イタ)・す心を尽くす。 心をこめる。「食を断ちて~・して願ふ所を祈請す/今昔 7」
~を痛・めるあれこれと心配する。 心を悩ます。~を一(イツ)にする多くの人が考えを一つにする。 心を合わせる。「~して困難にあたる」
~を入れ替・える今までのことを反省し, 考えや態度を改める。~を打・つ深い感銘を与える。~を奪(ウバ)・う強く心を引き付ける。 夢中にさせる。~を置・く(1)心配・未練などの気持ちが残る。「幼子に~・いて出かける」
(2)うちとけない。 遠慮する。「我に心置き, ひきつくろへるさまに見ゆるこそ/徒然 37」
(3)用心する。 警戒する。「後の巡査に聞えやせんと, ~・きて振返れる/夜行巡査(鏡花)」
~を起こ・す(1)心を奮い立たせる。 元気を出す。「~・して御湯などをも御覧じ入るるつまとやなる/寝覚 5」
(2)信仰心を起こす。 発心(ホツシン)する。「~・してたしかに一部を書写し畢(オワ)りて/今昔 6」
~を躍(オド)ら・せる気持ちをたかぶらせる。~を鬼(オニ)にする気の毒に思いながら, その人のためを思ってやむなく厳しくする。「~して破門する」
~を傾(カタム)・ける一つのことに精神を集中する。~を砕・く(1)いろいろと力を尽くす。 苦心する。「~・いておもてなしをする」
(2)心配する。「人知れぬ~・き給ふ人ぞ/源氏(須磨)」
~を配・る周囲の人や物事に注意を払う。 配慮する。~を汲(ク)・む相手の気持ちを思いやる。~を籠(コ)・める思いを託す。 真心をこめる。「~・めた贈り物」
~を掴(ツカ)・む「心を捉(トラ)える」に同じ。「聴衆の~・む演説」
~を尽く・す(1)精魂を傾ける。 できる限りのことをする。(2)神経をすりへらす。「海山の道に~・し/竹取」
~を留(ト)・める(1)注意する。 気を付ける。(2)愛着を感じる。 心を寄せる。~を捉(トラ)・える人の気持ちをつかんで離さないようにする。 心をつかむ。「読者の~・える表現」
~を取・る取り入る。 人の機嫌をとる。「山門・南都・園城寺の衆徒の~・り/太平記 8」
~を引・く(1)関心・興味を引く。「墨絵に~・かれる」
(2)それとなく相手の気持ちをためす。 気を引く。~を開・くうちとける。 隠し立てをしないで, 本当の気持ちを話す。~を用(モチ)・いる気をくばる。 注意する。~を以(モツ)て心に伝(ツタ)・う「以心伝心(イシンデンシン)」を訓読みした語。「拈花(ネンゲ)瞬目の妙旨を~・へたり/太平記24」
~を破(ヤブ)・る人の機嫌を損ねる。「~・らじとて, 祖母おとどいであふ/源氏(玉鬘)」
~を遣(ヤ)・る(1)思いをはせる。 遠くの人や物を思う。(2)憂さを晴らす。 心を慰める。「酒飲みて~・るにあにしかめやも/万葉 346」
(3)思う存分にする。 満足する。「おのがじし~・りて人をば貶(オト)しめ/源氏(帚木)」
~を許(ユル)・す信頼して, 警戒心をもたないで相手に接する。 また, うちとける。「~・した友人」
~を寄・せる(1)好意をいだく。「ひそかに~・せる」
(2)傾倒する。 熱中する。
Japanese explanatory dictionaries. 2013.